3Dプリンティング材料大全:フィラメントの種類と特性を徹底解説

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2024年8月18日

3Dプリンティング材料大全:フィラメントの種類と特性を徹底解説


イントロダクション


3Dプリンティングの世界では、使用する材料の選択が成功の鍵を握ります。適切な材料を選ぶことで、プロジェクトの要件を満たし、高品質な造形物を作ることができます。本記事では、主要なフィラメントの特徴から用途別のおすすめ材料、そして適切な保管方法や取り扱い時の注意点まで、3Dプリンティング材料に関する包括的な情報をお届けします。

目次

  1. 主要フィラメントの特徴と比較
  2. 用途別におすすめの材料
  3. 材料の保管方法
  4. 取り扱い時の注意点
  5. 新しい材料と将来の展望


1. 主要フィラメントの特徴と比較


3Dプリンティングで使用される主要なフィラメントには、PLA、ABS、PETG、ナイロンなどがあります。それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。

PLA (Polylactic Acid)


特徴:

  • 生分解性プラスチックで環境にやさしい
  • 低温で印刷可能(180-220℃)
  • 硬くて脆い性質
  • 低い熱変形温度(約60℃)


長所:

  • 印刷が容易
  • 臭いが少ない
  • 様々な色や特殊フィラメント(木材調、金属調など)が豊富


短所:

  • 耐熱性が低い
  • 屋外での使用に不向き
  • 経年劣化しやすい


適した用途:

  • プロトタイピング
  • デコレーション用品
  • 室内用の小物や部品


ABS (Acrylonitrile Butadiene Styrene)


特徴:

  • 石油由来のプラスチック
  • 高温での印刷が必要(220-250℃)
  • 強靭で耐衝撃性が高い
  • 熱変形温度が比較的高い(約100℃)


長所:

  • 耐久性が高い
  • 後加工が容易(サンディング、塗装など)
  • 耐熱性に優れる


短所:

  • 印刷時に反りやすい(ヒートベッドが必須)
  • 強い臭いがする
  • 環境への配慮が必要


適した用途:

  • 機能的な部品
  • 自動車部品
  • おもちゃ


PETG (Polyethylene Terephthalate Glycol)


特徴:

  • PETの改良版で、柔軟性と強度のバランスが良い
  • 印刷温度は中程度(220-250℃)
  • 耐衝撃性と耐化学性に優れる


長所:

  • PLAよりも耐久性が高く、ABSよりも印刷が容易
  • 臭いが少ない
  • 食品安全性が高い


短所:

  • 糸引きが起きやすい
  • 吸湿性がある


適した用途:

  • 食品容器
  • 機械部品
  • 水中で使用する部品


ナイロン


特徴:

  • 非常に強靭で柔軟性がある
  • 高温での印刷が必要(240-260℃)
  • 耐摩耗性に優れる


長所:

  • 強度と靭性のバランスが優れている
  • 耐疲労性が高い
  • 軽量


短所:

  • 非常に吸湿性が高い
  • 印刷が難しい(反りやすい)
  • 高価


適した用途:

  • 機械部品
  • ヒンジや可動部品
  • 耐久性が求められる製品


材料特性比較表


| 特性     | PLA | ABS | PETG | ナイロン |
|--------------|-----|-----|------|----------|
| 印刷難易度  | 易 | 難 | 中  | 難    |
| 強度     | 中 | 高 | 高  | 非常に高 |
| 柔軟性    | 低 | 中 | 中  | 高    |
| 耐熱性    | 低 | 高 | 中  | 高    |
| 耐衝撃性   | 低 | 高 | 高  | 非常に高 |
| 環境親和性  | 高 | 低 | 中  | 中    |
| コスト    | 低 | 中 | 中  | 高    |

2. 用途別におすすめの材料


プロジェクトの要件に応じて、適切な材料を選択することが重要です。以下に、一般的な用途とそれに適した材料を紹介します。

プロトタイピング

おすすめ:PLA
理由:印刷が容易で、素早く形状を確認できます。

機能的な部品

おすすめ:ABS, PETG, ナイロン
理由:強度と耐久性が要求される場合に適しています。用途に応じて選択してください。

食品関連用品

おすすめ:PETG, PLA
理由:食品安全性が高く、耐久性もあります。

屋外で使用する製品

おすすめ:ASA (ABS代替), PETG
理由:UV耐性と耐候性に優れています。

柔軟な部品

おすすめ:TPU, TPE
理由:ゴムのような弾力性を持ち、柔軟な部品の製作に適しています。

高温環境で使用する部品

おすすめ:PEEK, ULTEM
理由:非常に高い耐熱性を持ちますが、印刷には特殊な設備が必要です。

3. 材料の保管方法


フィラメントの適切な保管は、印刷品質と材料の寿命に大きく影響します。以下に、効果的な保管方法を紹介します。

1. 密閉容器の使用

  • 気密性の高いプラスチック容器やジップロック袋を使用します。
  • シリカゲルなどの乾燥剤を一緒に入れると効果的です。


2. 適切な温度と湿度の管理

  • 室温(20-25℃)で保管します。
  • 相対湿度は50%以下に保つことが理想的です。


3. 直射日光を避ける

  • UV光によって材料が劣化する可能性があるため、暗所で保管します。


4. フィラメントドライヤーの使用

  • 特に吸湿性の高い材料(ナイロン、PETGなど)には、専用のフィラメントドライヤーの使用を検討してください。


5. 使用直前まで開封しない

  • 新しいフィラメントは使用直前まで密封状態を保ちます。


4. 取り扱い時の注意点


フィラメントを適切に取り扱うことで、印刷品質を向上させ、プリンター本体のトラブルを防ぐことができます。

1. 清潔な環境での作業

  • ほこりや汚れがフィラメントに付着しないよう、清潔な環境で作業します。


2. 適切な温度設定

  • 各材料に適した温度でプリントします。温度が低すぎると層の接着が悪くなり、高すぎると材料が劣化します。


3. フィラメントの乾燥

  • 吸湿したフィラメントは、使用前にオーブンやフィラメントドライヤーで乾燥させます。


4. プリンターのメンテナンス

  • ノズルの定期的なクリーニングを行い、詰まりを防ぎます。


5. 材料の切り替え時の注意

  • 異なる材料に切り替える際は、前の材料を完全に押し出してから新しい材料を導入します。


6. 安全性への配慮

  • 一部の材料(特にABS)は印刷時に有害な煙を発生する可能性があるため、適切な換気を行います。


5. 新しい材料と将来の展望


3Dプリンティング材料の分野は急速に発展しており、新しい材料や技術が次々と登場しています。

1. コンポジット材料

  • 金属粉末や炭素繊維を含むフィラメントが開発され、より高強度や特殊な性質を持つ造形物の製作が可能になっています。


2. バイオ材料

  • 医療分野での応用を目指し、生体適合性の高い材料や、細胞の増殖を促進する材料の研究が進んでいます。


3. スマート材料

  • 形状記憶ポリマーや、外部刺激に反応して性質が変化する材料の開発が進んでいます。


4. 持続可能な材料

  • リサイクル材料や、より環境に配慮した生分解性材料の開発が注目されています。


5. 高性能エンジニアリングプラスチック

  • PEEK, PEI (ULTEM)などの高性能材料の3Dプリンティングが可能になり、航空宇宙産業などでの応用が期待されています。


まとめ


3Dプリンティング材料の世界は非常に多様で、常に進化を続けています。プロジェクトの要件に合わせて適切な材料を選択し、正しく取り扱うことで、高品質な造形物を作ることができます。

PLAは初心者に最適な材料ですが、より高度なプロジェクトには、ABS、PETG、ナイロンなどの特性を活かした材料選択が重要です。また、適切な保管と取り扱いは、材料のパフォーマンスと寿命を最大限に引き出すために不可欠です。

新しい材料や技術の登場により、3Dプリンティングの可能性はますます広がっています。材料科学の進歩と共に、将来はさらに革新的な応用が可能になるでしょう。

FAQ


Q1: フィラメントが吸湿した場合、どのように乾燥させればよいですか?
A1: オーブンやフィラメントドライヤーを使用して乾燥させることができます。PLA, ABS, PETGの場合、40-50℃で4-6時間程度、ナイロンの場合は60-80℃で6-8時間程度乾燥させます。ただし、材料によって最適な温度と時間が異なるので、製造元の推奨事項を確認することをお勧めします。

Q2: 環境に優しい3Dプリント材料にはどのようなものがありますか?
A2: PLAは生分解性プラスチックとして知られていますが、他にもPHA(ポリヒドロキシアルカノエート)やウッドファイバーを含む複合材料など、環境への影響を考慮した材料が開発されています。また、リサイクルペットボトルから作られたリサイクルPETGなども環境に配慮した選択肢です。

Q3: 食品安全性の高い3Dプリント材料は何ですか?
A3: PETGは一般的に食品安全性が高いとされています。また、一部のPLAも食品安全性の認証を受けています。ただし、3Dプリントの層構造は細菌が繁殖しやすいため、食品と直接接触する用途では注意が必要です。

参考資料とリソース


1. "3D Printing Materials Guide" by All3DP - comprehensive online resource
2. "Functional 3D Printed Polymers" by Rigoberto C. Advincula, et al.
3. Ultimaker Material Alliance Program - https://ultimaker.com/material-alliance
4. Stratasys Materials Information - https://www.stratasys.com/materials/

著者情報


本記事は、材料工学を専門とし、3Dプリンティング業界で5年以上の経験を持つエンジニアが執筆しました。材料の特性評価や新材料の開発プロジェクトに携わった経験を活かし、実用的な観点から情報をお届けしています。