光造形3Dプリンターのメリット・デメリットとは?
著者名
2022年7月19日
目次
光造形技術を用いた3Dプリンターは、従来のモデルとは異なり、光を使って物体を作り出す特性を持っています。この技術は、非常に高精度で複雑な形状の製品を作り出すことができます。さらに、プロトタイプの製作に適しており、短期間で形状の確認やアイディア検証を行うことができます。しかし、高精度であるため、印刷時間が長くなる傾向があり、印刷範囲が制限される場合もあります。本記事では、3Dプリンター、つまり光造形方式の利点と欠点について詳しく見ていきましょう。
光造形3Dプリンターのメリット
まずは、光造形方式3Dプリンターのメリットからご紹介します。大きく6つのメリットを挙げてみました。
メリット①:高精度である
光造形方式では、積層する際の積層ピッチ(※ 3Dプリンターは1層1層、層を積み上げて造形物を作りあげます。その1層の厚みを積層ピッチと言います)が0.05〜0.10 mmと非常に薄く、さらに紫外線を照射するレーザーの径も非常に微細であることから、XYZ全ての方向で高精度な造形をすることができます。そのため、非常にリアルな仕上がりの製品を作ることができます。
光造形3Dプリンターには大きく3種類の動作方法があり、それぞれ「DLP(Digital Light Processing)」「LCD(Liquid Crystal Display)」「SLA(Stereolithography)」とありますが、一般的にはSLA方式の3Dプリンターが一番綺麗な仕上がりが実現できるとされていります。詳しくは、それぞれの特徴を書いた以下記事をご覧ください!
光造形3Dプリンターとは
「フィギュア人形」などは光造形3Dプリンターで作られることが多いですが、それは高精度な仕上がりが実現できる光造形ゆえに採用されているという理由が挙げられます。
実際に光造形を用いてフィギュアを作作られている方の実例をいくつかご紹介いたします。
@hashimaki_poly
1/7(たぶん) 大場なな 自作フィギュア 完成しました。
— はしまきポリゴン (@hashimaki_poly) April 10, 2022
苦労しましたが、光造形と塗装の良い経験になりました。大切に飾ります。 pic.twitter.com/uM89eWrqzS
@anitemp
LCD光造形の12cmくらいのキン消しフィギュアを作って遊んでるんですが凄くいい感じで面白い。
— 渡辺哲也💤 (@anitemp) May 19, 2021
時間とか原価のバランスも割といい
販売する場合も2~3000円なら儲からないけど赤字にはならない気がする。
あとは出力品のひび割れや劣化の問題だけだな。 pic.twitter.com/VxhnYK5jUc
メリット②:滑らかな仕上がり
光造形方式を用いて作られた製品の表面は、非常に滑らかな仕上がりになります。粉末焼結方式や熱溶融方式で作成した造形物は、粉末痕や積層痕がはっきりと残ってしまうため、取り出し後にある程度研磨が必要になります。しかしながら、光造形方式で作成した造形物は、取り出し・洗浄後から滑らかな仕上がりになります。
これは液体樹脂を紫外線や可視光線で硬化させることによって、立体物を作り出すため、層が重なる際に発生する段差や積み重なりの痕跡が少なく(=積層痕と呼ばれます)、滑らかな表面仕上がりを実現することができます。
メリット③:等方的な性質
光造形方式で作成した造形物は、平面方向・高さ方向で異方的な性質を示すことはなく、基本的に等方的な性質を有します。産業用製品などの分野では、特にこの等方的性質がメリットになります。光造形方式では、立体物を作り出す際に、液体樹脂を紫外線や可視光線で硬化させることで、素材が均一に硬化します。これにより、製品の強度や耐久性が向上します。
熱溶融方式(FDM)で作られた部分は積層方向の引っ張りに弱く、平面方向の引っ張りには強い(=異方的性質)を有します。光造形方式では積層方向・平面方向で引張強度に大きな差がないことが知られています。この特徴は、工業製品のプロトタイプ製作や医療用途など、高い強度が求められる分野での利用にも適していると言えます。
メリット④:多彩なカラーバリエーション
光造形3Dプリンターによる製品は、カラフルな色彩の表現が可能です。これは、液体樹脂にカラーピグメントを混ぜ込んで使用することができるためです。さらに光造形3Dプリンターでは透明の物体を作ることもできます。これは、光造形3Dプリンターで用いられる材料のUV硬化レジンは、一般的にアクリル樹脂を使用しており、アクリル樹脂は無色透明にすることができるため、透明な造形物を作ることが可能です。これは、粉末焼結方式(SLS)や熱溶融方式(FDM)などではできない光造形方式ならでは特徴です。
ただし、多彩なカラーバリエーションを表現するためには、カラーピグメントの種類や濃度などを調整する必要があります。また、カラーピグメントの混合や調整によって、製品の強度や性質に影響を与えることがあるため、設計や材料の選択によっては、強度や耐久性が低下する場合があります。そのため、カラーバリエーションの実現には、緻密な設計や材料選択が求められます。
メリット⑤:小さな造形物から大きな造形物まで
光造形方式では、造形するサイズに依存せず、基本的に高解像度を維持しつつ造形物を作ることができます。数センチサイズの部品から数メートルの造形物まで高品質・高精度に作ることができます。
さらに、大型の造形物で3Dプリンターのワークサイズ(=造形可能エリア)を超える大きな部品を作るとき、半分ずつに分割して造形し、最後に張り合わせ一体の造形物を作ることができます。これが光造形方式でしかできないメリットでしょう。
メリット⑥:低価格・短納期でプロトタイピングができる
光造形では3Dデータを投入したら即造形を開始することができます。(※ 粉末焼結方式の3Dプリンターなどでは、材料準備に時間がかかります)そのため、造形・洗浄を含め2日程度で部品を作成することができます。高さのない造形物であれば1日で取り出すこともできます。また、金型は不要であるため、安価なコストで造形物を作ることができます。材料の価格は3,000~50,000円/L程度が一般的です。
このように光造形3Dプリンターは非常に多くの特徴・メリットを有しております。しかしながら、実社会での採用が加速度的に進まない背景にはいくつかクリティカルなデメリットがあるためであります。続いては、光造形3Dプリンターのデメリットについてご紹介します。
光造形3Dプリンターのデメリット
光造形3Dプリンターのデメリットや注意すべき点についてご紹介します。そのデメリット解決方法についてもご紹介します。
デメリット①:機械的物性が優れない
光造形方式により作られた部品は、一般的に強度に優れず、力が加わると変形や破損してしまうことがあります。現在、産業分野でプロトタイピングの域を抜け出せない主たる理由ではないでしょうか。曲げこわさ、引張強さだけでなく、低負荷で長時間使用した際にかかる疲労・クリープ耐性も高いとは言えません。粉末焼結方式(SLS)で作れらた部品は非常に高い機械特性を示し、様々な実用例がありますが、光造形では長期間使用を想定した製品での実用例がまだまだ少なく、更なる技術開発に期待したいところです。
デメリット②:高価な機械と付帯設備設置
産業用の光造形3Dプリンターは1000万円を超えてくるため、初期導入コストがかかります。さらには、光造形プリンターから取り出したのち、有機溶剤(IPAなど)による洗浄、UV露光装置により2次硬化というプロセスが一般的には必要になります。熱溶融方式(FDM)3Dプリンターのように、プリンター本体で完結するものではなく、付帯設備の設置も必要になります。
しかしながら、光造形3Dプリンターは海外メーカーから非常に多くのモデルが販売されており、特にデスクトップ型の光造形3Dプリンターは数十万円程度から導入ができます。デスクトップ型でも十分高精度なプリンターは販売されており、まずはデスクトップ型から導入して、検証してみるのはアリではないでしょうか。ミドルクラス(200万円)であれば高性能な機器も複数あるため、予算感がマッチすればミドルクラスも検討ください。
デメリット③:大量生産には不向き
これは3Dプリンター全般に言えることですが、一般的な部品でも12~24h程度製造に時間がかかるため、量がたくさん出る量産品の製造には不向きです。量産品の製造では、射出成形など他の製造方法を検討されると良いでしょう。オーダーメイド品、設計が頻繁に変わる(=頻繁に金型を作成する)などの場合は3Dプリンターの導入を検討して良いのではないでしょうか。フェラーリには3Dプリンターの量産品採用されていますが、これは金型コストと比較して3Dプリンターが優ったと聞きます。その他製造方法と比較検討の上適切な製造方法をご選択ください。
【まとめ】光造形3Dプリンターのメリット・デメリット
メリット:
- 高精度な仕上がり:非常に細かな部分や曲線形状の造形が可能。
- 等方的な性質:どの方向から見ても同じ品質の仕上がりが得られる。
- なめらかな仕上がり:積層方式の3Dプリンターに比べて、表面が滑らかで美しい仕上がりが得られる。
- 多彩なカラーバリエーション:カラー造形が可能。
- 小さな造形物から大きな造形物まで対応可能。
- 低価格・短納期でプロトタイピングができる。
デメリット:
- 機械特性が優れない。
- 高価な機械と付帯設備:光造形3Dプリンターは高精度を実現するための技術が複雑であり、高価な機種が多い。
- 大量生産には不向き。
光造形3Dプリンターは、高精度でなめらかな仕上がりが得られることや、カラー造形が可能であることなど、多くのメリットがありますが、高価な機種が多いというデメリットもあります。また、大型の造形物の製造には特殊な設備が必要となる場合があるため、用途に応じて適切な3Dプリンターを選択する必要があります。