SLA、LCD、DLP、3Dプリンターを比較。結局どれを選べば良いの?

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2025年3月5日

SLA、LCD、DLP、3Dプリンターを比較。結局どれを選べば良いの?

「SLA?LCD?DLP?どれがいいんだろう...」
3Dプリンターを買おうと思ったとき、こんな疑問にぶつかった経験はありませんか?私も最初は「光造形」という言葉すら理解できず、ネットの情報の海で溺れそうになりました。
樹脂系3Dプリンターの世界はとにかく略語だらけ。そして各メーカーが「うちが最高!」と主張するばかりで、素人には何が違うのかさっぱりわからない。でも安心してください。この記事では、3年間実際に3種類全てのプリンターを使ってきた私が、本当の違いをわかりやすく解説します。

光造形3Dプリンターの3つの方式:ぶっちゃけ何が違うの?

まず基本中の基本。SLA、LCD、DLPは全て「光で樹脂を固める」というシンプルな原理で動いています。液体の樹脂に光を当てると硬化する性質を利用して、少しずつ積み上げていく技術です。ただ、その「光の当て方」が違うんです。

SLA(ステレオリソグラフィー):レーザーでなぞるタイプ

私が最初に触れたのがFormlabsのForm 2というSLA方式のプリンターでした。当時は「なんて精密なんだ!」と感動したものです。
どんな仕組み?
小さなレーザー光線が液体樹脂の表面を、まるで鉛筆で絵を描くように少しずつなぞっていきます。3Dプリンターの元祖とも言える技術で、1986年に発明されました。
使ってみた感想:
「精密だけど気が長くないとキツイ」。これに尽きます。細かい造形物は本当に美しいのですが、レーザーがなぞる時間がかかるので、大きなものを作ると「まだ終わらないの?」とイライラすることも。ただ安定感は抜群で、一度設定さえ決まれば失敗は少ないです。

LCD(液晶マスク方式):スマホの画面で一気に固めるタイプ

次に手を出したのがAnycubicのPhoton。当時は「え、こんな安いの?」と驚きました。
どんな仕組み?
スマホの液晶画面のような仕組みで、UV光を通す部分と遮る部分を作り、一層全体を一気に硬化させます。言ってみれば「デジタルな日光写真」のような技術です。
使ってみた感想:
「安くて速いけど、画面が消耗品なのがネック」。特に初心者にはおすすめできる技術です。造形速度が速く、価格も手頃。ただ、LCDパネルが2000〜4000時間で寿命を迎えるので、長期的なコスト計算は必要です。最近はパネル交換も簡単になってきました。

DLP(デジタルライトプロセッシング):プロジェクターで映すタイプ

最後に試したのがAnycubicのPhoton Ultra。「LCDより高いけど何が違うの?」と思いながら購入しました。
どんな仕組み?
プロジェクターのような仕組みで、小さな鏡の集合体(DMD)を使って、UV光を樹脂の表面に投影します。ちょうど映画館のプロジェクターが映像を映すイメージです。
使ってみた感想:
「LCDとSLAの良いとこどり」という感じ。LCDのように一層を一気に硬化させる速さと、SLAに近い安定感を兼ね備えています。ただ、価格帯はLCDより高め。個人的には「ちょっとこだわりたい人向け」です。

本音で比較!何が違ってどっちがいいの?

さあ、ここからが本題。3つの技術を徹底的に比べてみましょう。表だけ見るとわかりにくいので、実際の使用感も交えて解説します。

精度と解像度:細かい造形はどれが得意?

「精度が良い」というのは3Dプリンターの大事な要素。でも数値だけでは伝わりにくいですよね。
技術 XY解像度の目安 実際の造形物で感じる違い SLA 25〜100μm 宝石のような精密さ。フィギュアの顔の表情まで再現できる LCD 35〜50μm 最新の8K機種なら肉眼ではSLAと区別つかないレベル DLP 30〜100μm 均一感があり、光沢のある仕上がりになりやすい 実体験: ゲームキャラクターの5cm大のフィギュアを3種類の機械で作ってみたところ、SLAとDLPでは目の細かい表情まで再現できました。LCDも4K以上のモデルなら十分キレイに出来ましたが、古い機種だと若干粗さを感じました。
「8Kの液晶と聞くと『すごい!』と思いますが、実際の造形物では4Kでも十分キレイです。それより樹脂の選び方や後処理の方が仕上がりに影響します」

造形速度:待ち時間はどれくらい違う?

これは製作個数が多い人には特に重要なポイント。
技術 5cmフィギュア造形時間 実際の使用感 SLA 約5〜6時間 「寝る前に開始→朝には完成」くらいの気持ちで使う LCD 約2〜3時間 「帰宅後に開始→夕食後には完成」というスピード感 DLP 約2〜3時間 LCDとほぼ同等の速さ 実体験: 同じ3Dモデルを3種類のマシンで造形したとき、LCDとDLPはほぼ同じ時間でしたが、SLAは約2倍かかりました。特に底面積が広いモデルではSLAの遅さが顕著です。
「造形時間はスライサーソフトの設定で変わるので、速度重視なら層の厚みを大きくする手もあります。ただ精度とのトレードオフになります」

お値段と維持費:結局いくらかかるの?

お財布事情は正直一番大事。単純な本体価格だけでなく、ランニングコストも考慮する必要があります。

2025年現在の実勢価格帯

技術 初心者向けモデル 趣味の本格派向け プロ仕様 総合的なコスパ SLA 15〜25万円 30〜50万円 70万円〜 ★★☆ LCD 3〜7万円 8〜15万円 20〜40万円 ★★★★ DLP 8〜15万円 20〜40万円 50万円〜 ★★★ 実体験: 「安いLCDプリンターを買って、浮いたお金で樹脂や洗浄機を買った方が始めやすい」というのが私の結論です。特に初めての一台ならLCDの低価格モデルで十分です。
「フィギュア作りに目覚めて毎日のように造形していたら、半年でLCDパネルの交換が必要になりました。交換費用は約8,000円。頻繁に使うなら消耗品費用も計算に入れましょう」

メンテナンスの手間:面倒くさくないのはどれ?

これは意外と見落とされがちなポイント。3Dプリンターは精密機械なので、定期的なメンテナンスが必要です。
技術 日常のお手入れ 定期メンテナンス イライラ度 SLA レジンタンクの清掃(月1回程度) レジンタンク交換(半年〜1年) ★☆☆ LCD FEPフィルム清掃(月1〜2回) パネル交換(1〜2年)、FEP交換(3ヶ月) ★★★ DLP レジンタンク清掃(月1回程度) 光学系のクリーニング(半年)、LED交換(数年) ★★☆ 実体験: 「LCDのFEPフィルム交換は最初は緊張しましたが、慣れると15分程度でできます。でも失敗すると樹脂漏れの原因になるので注意が必要です」
「SLAは構造がシンプルで壊れにくいのが魅力。高いけど長く使うならSLAの方がトータルコストは同等かも」

用途別:あなたの目的に合うのはどれ?

さて、ここからは具体的な用途別におすすめを紹介します。正直、万能な機種はないので、自分の使い道に合わせて選ぶのが一番です。

趣味・ホビー用におすすめは?

「趣味で始めたい」「とにかく手頃に試してみたい」という方には、断然LCDがおすすめです。
理由:

  • 初期投資が少なくて済む
  • 造形速度が速いので試行錯誤しやすい
  • コミュニティが大きく情報が豊富

具体的な機種:

  • Elegoo Mars 4 Ultra 9K(6万9800円) → 9K解像度でコスパ最強。初めての一台に最適
  • Anycubic Photon Mono M5s(7万4800円) → 使いやすいUIと安定性が魅力
  • QIDI TECH Shadow 6 Pro(8万9800円) → 若干高めだが、サポート体制がしっかりしている

実体験: 「初めての3Dプリンターとして中古のElegoo Mars 2を3万円で購入しました。ネットで調べながら試行錯誤するうちにコツがつかめて、今では自作フィギュアを作れるようになりました。はじめは安価なモデルで十分です」

フィギュア・模型制作に最適なのは?

フィギュアや精密な模型作りを主目的とするなら、精度重視でSLAか高解像度のLCDがおすすめです。
理由:

  • 細部の再現性が重要
  • 表面の滑らかさが求められる
  • 安定した造形品質が必要

具体的な機種:

  • Formlabs Form 3+(SLA・39万8000円) → 業界標準の安定感と品質。本気ならこれ
  • Phrozen Sonic Mini 8K(LCD・12万8000円) → 超高解像度で精密造形。コスパ良好
  • Anycubic Photon Ultra(DLP・16万8000円) → 精密さと速度のバランスが良い

実体験: 「アニメフィギュアの自作にはPhrozen Sonic Mini 8Kを使っています。22μmという解像度は肉眼では違いがわからないレベルですが、髪の毛の表現などディテールが違います。SLAの半額以下で購入できるのも大きな魅力でした」

製品開発・プロトタイピングなら?

製品開発やプロフェッショナルな用途なら、安定性と精度を兼ね備えたSLAがベストですが、予算に応じてDLPも検討価値があります。
理由:

  • 再現性と信頼性が最重要
  • 長期的なサポートが必要
  • 様々な樹脂に対応できる柔軟性

具体的な機種:

  • Formlabs Form 3L(SLA・138万円) → 大型造形と安定感。プロフェッショナル向け
  • FlashForge Hunter(DLP・49万8000円) → 中規模事業者向けの信頼性

実体験: 「産業用部品のプロトタイピングではForm 3を使用しています。高価ですが、一度パラメータを設定すれば安定して同じ品質の造形ができるのが決め手でした。メーカーのサポートも手厚く、トラブル時も安心です」

実際に使ってわかった!各タイプの本音レビュー

カタログスペックだけではわからない、実際に使ってみて感じた各タイプの特徴をお伝えします。

SLAを1年使ってみて

良かった点:

  • 一度設定すれば失敗が少なく安定している
  • 造形物の精度と表面品質が素晴らしい
  • メーカーのサポートがしっかりしている(Formlabsの場合)

イマイチだった点:

  • 造形時間が長い(特に大きなモデル)
  • 純正樹脂が高価(1Lあたり1万円前後)
  • 本体が高く初期投資が大きい

1年後の結論: 「最初は高いと思ったけど、失敗が少なく時間のロスが少ないので、結果的にはコスパが良かった。本気で継続するなら最初からSLAを選ぶのもアリ」

LCDを2年使ってみて

良かった点:

  • コスパ最強!手頃な価格で高品質
  • 造形速度が速く、試行錯誤しやすい
  • コミュニティが大きく情報が豊富

イマイチだった点:

  • FEPフィルムの交換が面倒
  • LCDパネルの寿命がある(2000〜4000時間)
  • 機種によっては造形の安定性にムラがある

2年後の結論: 「初心者にも趣味ユーザーにも最もおすすめできるのはLCD方式。特に8K機種なら精度も十分。ただし、消耗品のコストも計算に入れるべき」

DLPを半年使ってみて

良かった点:

  • LCDより長寿命で安定している
  • 造形速度はLCDと同等に速い
  • 光沢のある滑らかな表面仕上げ

イマイチだった点:

  • LCDより高価なのにメリットが分かりにくい
  • モデルが少なく選択肢が限られる
  • 光学系のメンテナンスが専門的

半年後の結論: 「LCDとSLAの間を取った技術。使い込むほど『買って良かった』と思えるタイプだが、初めての一台としては少し敷居が高い」

選び方の5つのポイント:失敗しない選択法

最後に、あなたに合った3Dプリンターを選ぶための5つのポイントをご紹介します。

①まずは自分の用途を正直に考える

「かっこいいから」「高性能だから」で選ぶと失敗します。自分が何のために使うのかを明確にしましょう。
チェックポイント:

  • 月に何回くらい使う予定?
  • どんなものを作りたい?
  • どのくらいの大きさのものを作る?
  • 精度と速度、どちらを重視する?

「最初は『すごいものを作りたい!』と思ってハイエンド機を検討していましたが、実際は月1〜2回の趣味利用だとわかり、結局エントリーモデルにしました。正解でした」

②総コストで考える(本体価格だけじゃない!)

よく見落とされがちなのが、ランニングコスト。本体価格+1年間の消耗品・材料費で比較すると見え方が変わります。
1年間の予想コスト例(月4回、中型モデル造形の場合):
項目 SLAの場合 LCDの場合 DLPの場合 本体価格 350,000円 80,000円 170,000円 樹脂(年間) 60,000円 40,000円 50,000円 消耗品交換 15,000円 25,000円 20,000円 総コスト 425,000円 145,000円 240,000円 「結局のところ、本体価格の差が大きすぎて、1〜2年程度ならLCDが圧倒的にお得です。長期的に5年以上使うなら、SLAやDLPの耐久性もメリットになってきます」

③設置環境をリアルに考える

3Dプリンターは場所を取りますし、樹脂の臭いもあります。実際の設置環境を考慮しましょう。
確認すべきポイント:

  • 十分な作業スペースはあるか(本体+洗浄作業スペース)
  • 換気は十分か(窓がない部屋は避けるべき)
  • 子供やペットが触れない場所か
  • 温度管理ができるか(18〜28℃が理想)

「マンションの6畳の書斎に置いていますが、窓を開けて換気扇を回しても臭いが気になります。冬は結露対策も必要でした。ベランダ付きの部屋か、ガレージがあるなら理想的です」

④コミュニティとサポートを確認する

トラブル時に頼れる情報源があるかどうかは重要です。特に初心者は要チェック。
調べておくべきこと:

  • 日本語の公式マニュアルはあるか
  • 日本語対応のサポートデスクはあるか
  • SNSやフォーラムで活発なユーザーコミュニティはあるか
  • 交換部品は日本で入手しやすいか

「初めてのFEPフィルム交換で失敗して樹脂漏れを起こした時、日本のユーザーコミュニティが救いでした。英語のマニュアルだけだと挫折していたかも」

⑤将来の拡張性も考慮する

3Dプリントの世界にハマると、どんどん欲が出てきます。拡張性も視野に入れましょう。
考慮すべきポイント:

  • 大きなモデルを作る可能性はあるか
  • 複数の樹脂を使い分けたいか
  • 将来的に別の機種も追加する可能性は?
  • メーカーの新製品サイクルは?

「最初はフィギュア用と思っていましたが、後で実用パーツも作りたくなり、造形サイズの小ささに不満を感じるようになりました。最初からもう少し大きめのモデルを選べば良かった」

まとめ:あなたに合った3Dプリンターはこれだ!

ここまでの内容を総合して、簡単な判断基準をまとめてみました。
SLAがおすすめの人:

  • 精度と品質に妥協したくない人
  • 長期的な視点で投資できる人
  • 失敗のリスクを最小限にしたい人
  • プロフェッショナルな用途の人

LCDがおすすめの人:

  • 手頃な価格で始めたい初心者
  • コスパを重視する人
  • 短期間で多くのモデルを試したい人
  • フィギュアや小物制作が中心の人

DLPがおすすめの人:

  • LCD方式では物足りなくなってきた中級者
  • 長期使用を視野に入れている人
  • 造形速度と品質のバランスを求める人
  • 安定した造形結果を求める人

「結局のところ、最初の一台ならLCD、本格的に続けるならSLA、その中間を取るならDLP」というのが、3年間使い続けた私の結論です。
どの方式も日進月歩で進化しています。この記事が皆さんの選択の参考になれば嬉しいです。質問やご意見があればコメント欄でお待ちしています!

最後に私のおすすめ機種を紹介しておきます:
初心者向け最強コスパ機: Elegoo Mars 4 Ultra 9K(LCD・6万9800円)
中級者向けバランス型: Anycubic Photon Ultra(DLP・16万8000円)
本気の一台なら: Formlabs Form 3+(SLA・39万8000円)