SLS3Dプリンターの実用例をご紹介!

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2023年7月13日

粉末焼結積層造形(Selective Laser Sintering、SLS)3Dプリンティングは、製造業界で様々な活用をされています。SLS 3Dプリンティングは、製造業界においてプロトタイピングやカスタムパーツの製造、さらにはアートやファッションまで、幅広い分野で活用されています。
本記事では、SLS 3Dプリンティングの基本やその特徴についてご説明し、具体的にどのような活用をされているかご紹介していきます。
SLS 3Dプリンティングは、製造業界だけでなく、医療、自動車、航空宇宙など、さまざまな分野で活用が進んでいます。この記事を通じて、その多様な実用例と、この技術が私たちの生活や社会に与える影響について理解を深めていただければ幸いです。

SLS3Dプリンターの基本

SLS 3Dプリンターは、粉末状の樹脂や金属(=パウダー)に対して、造形物作りたい部分だけレーザーを照射し材料を焼結(熱により固化)することで、造形物を作り上げていくプリンターになります。
本記事では特に樹脂3Dプリンターに着目してご説明をしていきます。SLSの樹脂3Dプリンターは、一般的にナイロンやポリアミドといった熱可塑性ポリマーが使用されます。これらの材料は、高い耐久性と柔軟性を持ち、さまざまな製品の製造に適しています。
SLS 3Dプリンティングの大きな特徴の一つは、サポート構造が不要であることです。SLS方式は未焼結のパウダーが周囲を支える役割を果たすためです。これにより、複雑な形状や内部構造を持つ物体も自由に作成することが可能になります。
また、SLS 3Dプリンティングは、高精度で詳細な部品を作ることができます。これは、レーザーの焼結範囲を微細に制御できるためです。そのため、精密な部品や複雑なデザインの製品を作る際には、SLS 3Dプリンティングが選ばれることが多いです。
しかし、SLS 3Dプリンティングは後処理が必要であることが多く、付帯設備を導入して大掛かりになることも少なくありません。これは、焼結された部品がパウダーに埋もれており、それらパウダーを造形物から取り除く作業が必要になるからです。また、表面の仕上げや色付けなど、製品の見た目を改善するため、研磨など追加作業も必要となることがあります。
以上がSLS 3Dプリンティングの基本的なプロセスと特徴です。この技術は、製造業界に新たな可能性をもたらしており、その応用範囲は日々広がっています。


MJF3Dプリンターも

MJF(マルチジェットフュージョン)方式もここでは粉末から造形物を作り上げるということで、同じカテゴリーとして紹介させていただきます。MJF(Multi Jet Fusion)プリンティングは、HPが開発した3Dプリンティング技術の一つになります。この技術は、粉末ベッド融解(Powder Bed Fusion)の一種であり、選択的レーザー焼結(SLS)と同様に粉末ベッドを使用しますが、レーザーではなくインクジェット方式を用いて粉末を融合させます。こちらの技術で出来上がる製品も非常に堅牢で高精度な製品が出来上がることが特徴になります。詳しくは以下画像をご覧ください。
MJFとは?
参考:HP MJF (https://www.ricoh.co.jp/3dp/hp/

SLS・MJF3Dプリンターの実用例

SLS 3Dプリンティングは、その高精度と複雑な形状を作成できることから、さまざまな分野で活用されています。以下に、その主な実用例をいくつか紹介します。

プロトタイピング(工業系を中心に)

SLS方式で作られた造形物は、製品開発の初期段階でのプロトタイピングに広く使用されています。光造形方式や熱溶融方式でプロトタイピングを行う場合もありますが、高精度と複雑な形状を作成できることから、採用されることも多いです。特に造形物の強度が優れるため、実際に使用することができるのもSLS方式の特徴ではないでしょうか。光造形方式だと機械特性が優れないため、あくまで形だけの確認になることも少なくありません。

小ロット生産

SLS 3Dプリンティングは、小ロット生産にも適しています。製造設備の初期投資コストを抑えつつ、必要な数だけ製品を生産することが可能です。量産用の金型を作成するコストと比較することになりますが、廃番になった部品の再作成やオーダーメイド品の作成においては、SLS方式を用いられることが多いです。
例えば、トヨタ自動車は廃盤のパーツをSLS・MJF方式を活用して作成しているようです。
トヨタ自動車株式会社 「GRヘリテージパーツプロジェクト」の「A70スープラ」向け復刻部品を3Dプリンターで製造
https://www.solize.com/service-solution/final-parts-production/case/004/

医療分野

SLS 3Dプリンティングは、医療分野で広く活用されています。特にカスタムメイドの医療機器と3Dプリンティングは親和性が非常によく、例えば、患者の体のスキャンデータに基づいてカスタムフィットの医療器具を作成することが可能です。また、生体適合性のある材料を用いて造形を行えば、義肢なども作成も可能です。
ルーマニアのInvent Medical社では3Dプリンターを用いた医療機器・医療用装具を開発している企業で、赤ちゃん用の頭蓋形状矯正ヘルメットや脚の装具などを開発しているようです。
Invent Medical社

ファッション

ファッション分野でも、SLS 3Dプリンティングは新たな可能性を開いています。複雑な形状のアクセサリーや、体にフィットする衣類など、従来の製造方法では困難だった製品の製造が可能になりました。例えば、メガネフレームの小ロット量産用にSLSプリンターであるFormlabsのFuse1が採用されているようです。大量に生産しない製品は金型をおこして量産するとかなりのこすとがかかることから、3Dプリンターが活用されることも少なくありません。また、デザインの修正などもすぐに落とし込むことができ、活用が進んでいるようです。
Formlabs メガネ
参考:https://formlabs.com/jp/blog/swiss-eyewear-manufacturer-uses-sls-3d-printing/

アートと彫刻

アートと彫刻の分野でも、SLS 3Dプリンティングは新たな表現方法を提供しています。複雑な形状や、内部構造を持つ作品を作ることが可能で、これにより新たな芸術表現が生まれています。とある大学のアートデザイン教室では、以下のようなファッション用の製品をSLS3Dプリンターを用いて作成しているようです。複雑なデザインの製品を作成できるSLSだからこそ、実現できるのだと思います。光造形では強度面の不安があり、熱溶融方式では仕上がり面の懸念があるため、SLSを採用したのかな?と筆者は勝手に推測しております。いずれにせよ、SLSはアート分野でも活躍しております。
SLS x アート
参考:https://ja.trumpsystem.com/service/application-of-sls-nylon-3d-printing-technology-in-art-design-laboratories-of-colleges-and-universit.html

以上がSLS 3Dプリンティングの主な実用例です。これらの例からもわかるように、SLS3Dプリンティングはさまざまな分野で活用されています。

SLS3Dプリンターの課題と将来性

SLS 3Dプリンティングは多くの利点を持つ一方で、いくつかの課題も存在します。その一つがコストです。特に大量生産には向いておらず、またポストプロセッシングの必要性もコストを押し上げる要因となります。さらに、使用される材料の種類が限られていることも課題の一つです。
環境への影響も無視できません。プリンティングプロセス中に未使用のパウダーが大量に発生し、これが廃棄されると環境負荷となります。また、エネルギー消費も大きいという課題があります。
しかし、これらの課題を克服するための取り組みが進められています。例えば、より効率的なプリンティングプロセスの開発や、再利用可能な材料の開発などが行われています。また、新たな材料の開発も進められており、これにより製品の性能や適用範囲がさらに広がる可能性があります。
SLS 3Dプリンティングの将来性は非常に大きいと言えます。その高精度と複雑な形状の作成能力は、新たな製品開発や既存製品の改善に大いに寄与します。また、デジタルインベントリの実現により、在庫管理の効率化や製品の供給速度の向上も期待できます。
さらに、SLS 3Dプリンティングは、新たなビジネスモデルの創出にも寄与します。例えば、消費者が自分自身で製品をカスタマイズし、それを直接プリントするというビジネスモデルが考えられます。これにより、消費者のニーズにより密接に対応した製品の提供が可能となります。
以上がSLS 3Dプリンティングの課題と将来性です。この技術は、製造業界に新たな可能性をもたらし、その応用範囲は日々広がっています。

まとめ

SLS 3Dプリンティングは、製造業界に新たな可能性をもたらしています。高精度であることやデザインの自由度は、従来の製造方法では不可能だった製品の製造を可能にしています。また、デジタルインベントリの実現により、在庫管理の効率化や製品の供給速度の向上も期待できます。
しかし、この技術はまだ発展途上であり、いくつかの課題を克服する必要があります。コスト、材料の種類、環境への影響など、これらの課題を解決するための取り組みが進められています。これらの課題を克服することで、SLS 3Dプリンティングの応用範囲はさらに広がるでしょう。
また、SLS 3Dプリンティングは、新たなビジネスモデルの創出にも寄与します。消費者が自分自身で製品をカスタマイズし、それを直接プリントするというビジネスモデルが考えられます。これにより、消費者のニーズにより密接に対応した製品の提供が可能となります。
この記事を通じて、SLS 3Dプリンティングの基本、実用例、課題と将来性について理解を深めていただければ幸いです。この技術は、私たちの生活や社会に大きな影響を与える可能性を秘めています。その可能性を最大限に引き出すためには、継続的な研究と開発が必要でしょう。